VUUR アンネケ・ファン・ヒェルスベルヘン 来日インタビュー(パート2)

2019年4月20日・21日、大阪・東京で行われた“Metal Female Voices Fest in Japan 2019” で待望の初来日を果たした、元THE GATHERING のカリスマ女性シンガー、アンネケ・ファン・ヒェルスベルヘン(アネク・ヴァン・ガースバーゲン改め)率いるメタルバンド、VUUR!待望のアンネケの来日インタビューが奥村裕司氏によって実現!
パート1に引き続き、インタビューのパート2を掲載致します。

── Anneke Van Giersbergen(VUUR)interview ──
 by Yuzi Okumura
 (通訳:椎名 令)

[パート2]
──アンネケは、THE GATHERINGを脱けた後、しばらくメタルから離れていたような印象があるのですが、VUURで再びヘヴィ・メタリックな路線へ戻ってきたのには、何かキッカケがあったのですか? アンネケ・ファン・ヒェルスベルヘン(以下AVG):確かに、みんな私がメタルから足を洗ったと思っていたようね。事実、ソロ活動をやっていた時は、何でもやりたいことが出来た。どんな音楽でも。時間は幾らでもあったし、自分の曲もあったから。でも、私の心の中にはメタルがずっとあったのよ。実は私って、ひとりだとメタルの曲が書けないの。ギターもあまり上手くないしね。だから、(ソロ作では)楽曲に色んなアイディアを盛り込んでいた。ロックだったり、ポップだったり、あれこれとね。
 ただ、その間も他の人達とコラボする時は、いつもメタルをやっていたわ。デヴィン・タウンゼントとも、MOONSPELLとも、WITHIN TEMPTATIONとも。私自身としても、ずっとメタル・バンドが組みたかった。それで(ソロ作の)プロデューサーに、一緒にメタル曲を書いてくれるよう頼んだりもしていたわ。ひとりじゃ書けないから。ヴィジョンや曲のアイディアは持っていたのよ。そして、自分の曲を実演するために、このバンド──VUURが生まれた。今では幾つもの“自分”を抱えているわ。へヴィなことをやるこのVUUR、デヴィンとの共演、そして、その他のプロジェクトなどなど。
 あと、ソロでアコースティック・ギグもやっているの。まるで、同時に色んな列車に乗っているような感じよ(笑)。バンドとツアーに出て、その一方で、自分自身のアコースティックな活動も行なって。ツアーをやるのは本当に楽しい。色々な方法で自分を表現出来るのは、とても気に入ってるわ。
──いずれもヘヴィな音楽をやっているとはいえ、THE GATHERINGとVUURの音楽性はかなり異なります。中でも最大の違いは、VUURにはテクニカルなギタリストが2人もいる…という点だと思ったのですが、いかがでしょう? AVG:なかなかイイ指摘ね。私が新たにメタル・バンドを組んだと聞いた時、多くの人が「ああ、“THE GATHERING 2.0”ね」って思ったみたい。でも、私にはそのつもりはなかった。自分自身の音楽が創りたかったから。そもそもアイディアも違っていたしね。実際、(VUURの方が)もっとへヴィで、よりプログレ・メタル的な方向性でしょ? だから、それを演奏出来るプレイヤーを探していたのよ。THE GATHERINGはゆったりレイドバックしていて、まるでメタル版のPINK FLOYDといった雰囲気があった。でも──だからこそ(VUURは)よりアップ・テンポでプログレ寄りになったのよ。
 そのため、アルバム(’17年『IN THIS MOMENT WE ARE FREE – CITIES』)をリリースしたら、沢山の人がガッカリしたそうなの。THE GATHERINGっぽくなかったから…というのが理由よ。私が思うに、自分の声でハッピーな音楽をやるとTHE GATHERINGになるのよ。でも、私は“声”担当というだけで、(THE GATHERINGの)音楽を作っていたのはバンドだった。そこが(VUURとの)最も大きな違いだわ。スタートから2年を経て、最近ようやくVUURの音楽性が理解されるようになってきた…と思える。だから、これで良かったのよ。THE GATHERINGのレイドバック・メタルを今も追い求めている人達に信用してもらうためには、モノ凄く頑張らないといけないし、実際に、最初はとても大変だったのよ。ようやくウマく廻り始めたから、どんどん新しい曲を作って、盛り上げ続けていかないとね。
──脱退後も、何かにつけて“元THE GATHERINGの…”と言われ続け、そのイメージがずっと付きまとっていたことについてはどう感じていましたか? 
AVG:自分がTHE GATHERINGの一部として活動していたことについては、愉しかったとしか思っていないし、そのレガシーの一部であることについても、凄く嬉しく思っているわ。私にとってTHE GATHERINGは、自分が加入する前から特別なバンドだったから。そして(自分が)加入してからも、新しい女声入りの音楽を創った特別な存在となったし、(自分の後任である)シリエ(・ヴェルゲンラン)が加わって以降も、ずっと特別な存在だと思っている。でも、THE GATHERINGのキャリアの中で、(自分が)最も大きな存在だったということは、私自身もそう理解しているわ。色んな人から「THE GATHERINGに戻ってくれ!」と言われ続けていたからね。
 ただ、THE GATHERINGのメンバーと一緒にいる姿が恋しいという人もいれば、VUURでTHE GATHERINGっぽい曲をやるのが観たいという人もいて…。それぞれの思いを尊重するわ。みんな心の中に思い出や思い入れを持ち続けてくれているワケだからね。でも、それはそれとして──私個人は、ソロ・アーティストでいるのも好きだし、THE GATHERINGの曲をプレイするのも好きなのよ。観客に楽しんでもらえるのなら、ついついサーヴィスしちゃうし(笑)。
 THE GATHERING以来、色々なことをやってきた。小さなシアターでのショウもあれば、勿論ヘヴィ・メタルもやるし、その中間のあれこれなどなど…。その全てを追い掛けてきてくれたファンもいる。それは本当に嬉しい。実際のところ、私のオーディエンスは層が厚くて、年配から若い人、メタルヘッズもいれば普通の人々(笑)もいて、色んな異なるリスナーが私の音楽を気に入ってくれているの。だから、そういうこと(アンネケといえばTHE GATHERING)を言われるのも褒め言葉として受け取っているわ。
──THE GATHERINGのメンバーとは今でも付き合いがあるのですか? AVG:え~と…そうとは言えないかな(苦笑)。でも、大丈夫。憎み合ったり、ケンカしたりはしてないから。言ってみれば、離婚した夫婦みたいなモノよ。どんなにウマくいっている夫婦でも、そういうことってあるワケだし。今は別々のバンドにいるから変な感じだけど、私達の間には、生み出した音楽という子供達がいる。彼等には、いま一緒に活動しているシンガーがいて、私にも自分のバンド・メンバーがいる。だから、たまに両者が同じ場所にいると、何だか妙な感じがするのよ。時々、気まずいわね。オーディエンスは、時にはどちらかを選ばなくちゃいけないし、ちょっとモヤモヤする感じもある。ただ、どっちも観に行くという人も少なくない。THE GATHERINGもVUURも…どっちも楽しむ──私としては、それが一番なんだと思う。
──ソロでやっているというアコースティック・ギグについてですが、どの程度の頻度で行なっているのですか? AVG:沢山やっているわ。オランダは小さい国だけど、シアターは幾つもあって、こないだも44ヵ所のシアターを巡るツアーを終えたばかりよ。2ヵ月で44公演やったの。ひとつの公演を終えて、1時間もドライヴすれば、もう次の公演地…って感じで、オランダ国内だけを廻った。あの時は、(VUURの)ギタリストのフェリー(・ダイセンス)も一緒でね。彼はフィンガー・ピッキングが得意なのよ。
 あと、ひとりで弾き語りをやる小さなギグも、オランダ国内でよくやっているわ。その時は、歌い終えたら自宅に戻って、家で休んで…という感じだから、本当のツアーではないんだけど。実は今、ソロ名義のアコースティック・アルバム用の曲を書いていてね。来年の早い時期にリリースしたいと思っているの。そしたら、またそのツアーをやることになると思う。私ひとりでやるのか、フェリーと一緒なのかはまだ分からないけど。
──ちょっと基本的なことについても訊かせてください。そもそも、歌い始めたのは何歳頃でしたか? いつ「シンガーになる」と決意しましたか? AVG:幼い頃から、いつも踊ったり歌ったりしていたわ。家族の前で劇をやったりするのも好きだった。それで14歳の時、学校で合唱していたら、先生から「歌のレッスンを受けなさい」と言われてね。高い音まで出せるのが私だけだったからみたい。その時、「ああ…この先、一生歌い続けたい!」って思ったのよ。音楽も、歌うことも大好きだったから。そう実感したのね。
 当時もうギターを持っていて、ちょっと弾けたんだけど、歌は…本当に心から出てくる感じだったわ。でも、音楽で食べていけたら…って思うようになったのは、もう少し年齢が上がってからだった。真剣に、生計を立てられる形で…ね。それからずっと、もう何年も歌い続けてきているけど、未だに歌ってプレイすることを愛している。今夜だって、みんなの前でプレイ出来るのが本当に嬉しいのよ!
──ちなみに、オールタイムのフェイヴァリット・シンガーというと? AVG:そうねぇ…。素晴らしいシンガーって沢山いるけど、やっぱりフレディ・マーキュリーかな。彼は本当に凄いシンガーだと思う。ソフトで、優しくもあり、ラウドでもあり、あと…そうそう、オペラも歌えるんだからね! それに彼は、歌っている時はハッピーで、実に心がこもっている。カリスマ性もあって、正に全てを兼ね備えたシンガーだわ。
──QUEENのライヴを観たことは? AVG:それがね…ないのよ! 残念ながら、一度も…。行っておくべきだったわ。私がまだ子供の頃──’80年代にはまだ活動していたし、当然QUEENのことは知っていたのに。でも、観に行けなかったの。
──映画『ボヘミアン・ラプソディ』は御覧になりましたか? AVG:ええ! 私には14歳の息子がいるんだけど、フレディとQUEENの大ファンでね。彼と夫と一緒に観に行ったの。あの映画は息子の大のお気に入りになったわ。
──ただ、事実と異なる部分もあったりして、そこが物議を醸したりもしているようですが、あなたはどう思われましたか? AVG:確かに、色々(事実と)違っていたし、時系列も実際とは変わっていて、出来事がゴッチャになってた。でも、幾つかの事実は再現されていたわ。というか、あれは映画だからね。私は、映画を作るのは、ドキュメンタリーを撮るのとはまた違うと思っているの。それに、まるで世界が開けたかのように、映画の世界に惹き込まれる息子の表情を見ていたら、何が正確じゃないとか…そんなのはどうでもイイと思えたのよ。
 そこに、フレディらしさはあったし、彼の生き様や、彼が音楽と共にどう生きていったのか、それがしっかり表現されていたんだから。そう、とても感動的に…ね。そもそも私は、あまり批判的な人間じゃないし、良い演技で、良い物語ならいいのよ。私って…単純だから!(笑)
──先ほど、アコースティック・アルバムの話をされていましたが、VUURの次作の予定はいかがですか? AVG:まだ未定だけど──結構、先になると思うわ。まずは、そのアコースティック・アルバムを出して、そのツアーをやると思うから。勿論、バンドのために新しい曲も書くとは思うけど、それがいつになるのかは、今はまだ何とも言えないな。ソロ・アルバム用の曲を書き始めたところだから。ただ、今後もVUURのショウは、この先2年は続けるつもり。忙しくなるわね…!
──次回の来日も楽しみにしています! AVG:私達も楽しみにしているわ! どうもありがとう!!


VUUR / In This Moment We Are Free – Cities (RBNCD-1243)